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東京地方裁判所 平成5年(ワ)7647号 判決

原告 南雲俊夫

原告 和田博雄

原告 山口惇

原告 阿藤哲男

原告ら訴訟代理人 別紙原告代理人目録記載のとおり

被告 野村證券株式会社

右代表者代表取締役 酒巻英雄

右訴訟代理人弁護士 清宮國義

右同 西修一郎

右同 木村康則

右訴訟復代理人弁護士 磯谷文明

右同 本橋一樹

右同 森裕子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告南雲俊夫に対し、三七五五万六二四一円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告和田博雄に対し、九三三万二七六二円及びこれに対する昭和六二年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告山口惇に対し、七三一万〇六六八円及びこれに対する平成三年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告阿藤哲男に対し、一二四八万一七〇二円及びこれに対する平成二年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、被告との間でワラント取引を行った原告らが、被告の営業担当者が原告らに対し右ワラント取引を勧誘した行為につき、右勧誘行為は適合性の原則、説明義務等に違反し不法行為を構成すると主張し、被告に対し、民法七一五条の使用者責任又は証券取引法一六条に基づき(選択的)、原告らが購入したワラントの購入代金相当額から売却金相当額を控除した差額等の損害賠償を求めた事案である。

二  原告らの主張の要旨は次のとおりであり、被告はこれを争っている。

1  ワラント勧誘における被告の義務(各原告に共通する総論主張)

(一) ワラント取引は、いわゆるハイリスク・ハイリターンの取引であり、株よりも投機的色彩が強い商品であるところ、その価格情報や銘柄情報が証券会社に偏在しており、一般投資家は、証券会社に頼らないと取引が困難である。そこで、ワラントの販売が正当となるのは、ワラントの本質や権利の内容、その危険性の高さを熟知し、ワラントの取引システムに熟練し、十分な投資資金を有し、自ら十分な情報を収集しうる者、すなわち独自の立場で証券会社と対等に取引をなし得る能力を有する者が、勧誘によることなく自ら望んで取引に参入する場合に限定され、一般投資家への積極的な勧誘による自由な販売は許されないのであって、これに反して一般投資家をワラント取引に引き込むことは社会通念上相当性を逸脱し重大な違法行為である。

(二) さらに、ワラント取引をする際には次のような義務がある。

(1)  適合性原則

ワラント取引は、前述のとおり一般投資家にとって危険性の高いものであるから、独自に情報を収集する能力と大きなリスクを負担できる資金力及び経験を有するプロの投資家が自ら望んで取引に参入する場合にのみ適合するものである。

(2)  説明、確認、警告義務

ワラントは、一般投資家にとって周知性がなく、理解が極めて困難であり、証券会社は、顧客に対し、当該取引の特質、危険性、値動きなどについて十分説明等をすべき義務を負う。特にワラントのリスクは、商品構造自体に内在するデフォルト・リスクであるから、特に強いリスク警告義務がある。また、十分な説明とは、説明書をただ交付すれば足りるものではなく、顧客が理解して、当該投資のリスクをもわきまえるものでなければならないのであり、電話による勧誘はそれだけで説明義務に違反する。さらに、前記ワラントの商品特性から、個別の銘柄の権利内容についても説明すべきであり、マイナス・パリティのワラントは、買付を止めるよう助言する義務がある。

(3)  断定的判断の提供、虚偽事実の表示・誤解を生ぜしめる表示の禁止

断定的判断の提供は、証券取引法(平成三年法第九六号による改正前のもの)五〇条一項一号、公正慣習規則八号により禁止され、虚偽事実の表示又は重大な事項につき誤解を生ぜしめる表示は同法同項五号(当時)及び「証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和四〇年一月五日大蔵省令第六〇号)」二条一項、公正慣習規則八号により禁止されている。

(三) 目論見書交付義務

外貨建ワラントのユーロ市場における発行は、実質的には、日本市場における発行と異ならない結果を生じさせており、「はめ込み」は不特定多数の者に均一の条件で、新たに発行される有価証券の取得の申込みを勧誘する「募集」に該当し、発行後のバラ売りは「売出し」に該当するので、証券会社は、ワラントを顧客に売付ける場合は、右目論見書の交付義務があるから、目論見書を交付しないで顧客がワラント取得により損害を被った場合これを賠償する義務がある。

2  南雲俊夫関係

(一) 原告南雲俊夫(以下「原告南雲」という。)は、昭和五九年及び同六〇年始めころから、被告川口支店で中期国債ファンド、転換社債、NTT株等を「預入金額の範囲内で取り引きする」との条件で、購入していた。昭和六三年一二月下旬ころ、担当者知野裕(以下「知野」という。)は、原告南雲に対し、電話でワラント取引を勧誘し、<1>ワラントは、基本的には株式市場と同じであるから、市場全体の動きを見ていればよいものであること、<2>短期間で売買するものであるから損失が大きくなることはないものであること、<3>被告に運用を任せて欲しいことを説明したが、詳しい説明はしていなかった。この時の電話のやりとりで、原告南雲は、知野に対し、取引に供している資金は、住宅購入資金の一部であるから、一割程度の損失が出たら取引を打ち切ることを条件とすることを伝えた。なお、この電話の際、知野から、確認書を郵送するから、それに署名捺印して返送するよう求められ、直後に、被告川口支店から原告南雲宛に「ワラント取引に関する確認書」が郵送されたので、これに署名捺印して返送したが、「ワラント取引に関する説明書」などは見せられていなかった。その後、知野の電話による勧めのままに、ワラントの取引をしてきたが、原告南雲から銘柄を選択して買付注文を出したことは一度もなかった。

(二) 平成元年六月ころ、被告川口支店の原告南雲の担当者が、知野から藤田良樹(以下「藤田」という。)に変わった旨の電話連絡があった。その後、藤田が、原告南雲方に立ち寄り、従来どおりの取引を続けることを相互に確認した。これが、藤田と面談した一回目だった。その後も、ワラント取引は、従来どおり売買の承諾と不足資金の送金で継続していたが、平成三年八月か九月ころになって、藤田から「どうしても説明したいことがあるので、面談したい。」との強い申入れがあり、その頃、二回目の面談をしたところ、藤田は、原告南雲に対し、原告保有のワラント商品では大きな損害が出ることとなり、期限が近いので損害回復が望めないことなどの説明をし、最後には書類に判を押してくれと言って、原告南雲の印影を持って帰った。

(三) 被告が、原告南雲に対し、ワラントについて、当初からその正確な仕組み、危険性などの情報を提供しておれば、原告南雲はこのようなものには手を出さなかった。最も重要なリスクについては、何らの説明もせず、個人にとっては負担しきれないほどの損失を放置する被告の態度は「人を騙した」とも評すべき許し難い行為である。

(四) 損害

原告南雲は、被告の右の違法行為により、本訴訟追行のための弁護士費用三四一万四二〇九円を含め合計三七五五万六二四一円の損害を被った。

(五) よって、原告南雲は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償又は証券取引法一六条に基づく損害賠償請求として、三七五五万六二四一円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  和田博雄関係

(一) 原告和田博雄(以下「原告和田」という。)の父である訴外和田武(以下「訴外武」という。)は、昭和六一年当時、被告に口座を開設し、株取引を行っていた。ところが、昭和六一年八月ないし九月ころ、約一か月間、訴外武が入院した際、被告の営業担当者西家卓治(以下「西家」という。)は、訴外武宛の勧誘の電話に応対していた原告和田に対し、「実はお父さんのような七〇歳以上のお客さんに株の取引を勧めてはいけないことになっているので、これからは息子さんの名義でやるようにしたい。」と繰り返し株取引を勧誘するようになった。原告和田は、西家の強気の言葉と原告和田自身の性格のせいもあって、だんだんと断りにくくなり、結局原告和田の名義で取引をすることに同意し、西家の指示で五〇〇万円を送金して、原告和田名義の口座で取引が始まった。ただし、取引に際し用いる届出印については、訴外武使用の「和田武」の印影の印鑑を引きつづき使用した。

(二) 取引開始後、原告和田は、西家の言うままに、売買を承諾し、その取引回数は株取引の初心者としては異常に多かった。また、その資金は、訴外武名義の預貯金であり、かつ原告和田の自宅兼店舗を新築するための資金として準備していたものであったため、原告和田は、西家に対し、その旨を告げて、「損をしては困る」とくぎをさしていたところ、西家も「自分に任せれば大丈夫、素人には株の取引は難しい。」などと述べて原告和田を安心させていた。

(三) 昭和六二年二月二五日ころ、西家は原告和田に電話をかけ、「今度新しい商品が入った、三倍に動くものだ、高いときに売れば利が大きい、専門家の私が指導するから大丈夫、やってみないか」等と述べて、ワラント取引を勧誘したが、この時には「ワラント」という商品の説明はおろか、その名前さえ原告和田に告げておらず、ワラントが株を買う権利であることや、普通の株より危険が大きいこと、権利行使期があって価値がゼロになってしまう場合があることなどについて全く説明を行わなかった。そして、「転換社債のようなものだ。」と言って、利殖性を強調したばかりか、「大蔵省から認められた商品だ」等と述べて原告和田を信用させた。そのため原告和田は、西家がその時勧誘していた商品がワラントという証券であること、その仕組みや株などとの違い、危険性、特に価値がゼロになってしまう危険があること、などについても全く認識し得ず、原告和田は、ワラントに関する情報を得ることもできないまま、西家の言うがままにワラント取引をさせられていた。

(四) 平成三年八月ころに、原告和田は新聞でワラント被害の記事を見るようになり、ワラントが大変に危険なものであり、株についてさえ全く素人である自分が手を出すべきものではないことを知った。原告和田は当時の担当者(篠原又はその後任の岡沢)に対し、まだ自己名義のワラントがあるかどうか確かめ、残っていた別紙取引経過一覧表(二)の8番(三井不動産)と9番(三菱地所)のワラントを直ちに売却するよう要求した。三井不動産ワラントは比較的すぐに売却したが、三菱地所は一か月ほど放置された後、やっと売却された。

(五) 被告の法的責任としては、原告和田の学歴・経歴から、適合性原則違反があり、西家がワラント取引を勧誘する際には説明義務違反や断定的判断の提供があり、また、過当勧誘があったものである。

(六) 損害

原告和田は、被告の右違法行為により、本訴訟追行のための弁護士費用八四万八四三三円を含め合計九三三万二七六二円の損害を被った。

(七) よって、原告和田は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償又は証券取引法一六条に基づく損害賠償請求として、九三三万二七六二円及びこれに対する昭和六二年九月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4  山口惇関係

(一) 原告山口惇(以下「原告山口」という。)は、昭和六二年以来、被告所沢支店において、株投資をしており、その規模は、月に二〇〇万から五〇〇万円くらいの売買であった。

(二) 平成三年四月初めころ、原告山口が、被告所沢支店営業課長代理であった野村喜一郎(以下「野村」という。)に対し、株で損を被ったことでクレームを付けたところ、野村は、原告山口の経営する会社に来て、ワラント取引を強く勧めた。その際、「株は儲からないが、ワラントは絶対儲かる。これまでの株での損失分を短期間で絶対取り戻せる。」と三〇分以上にわたって執拗に繰返した。野村のワラントに関する説明は、それだけであり、ワラントの仕組み・ワラント取引の危険性等、取引を躊躇させるような説明は全くなかった。そこで、原告山口は、ワラント購入を決意し、野村が一方的に勧めた銘柄のワラントを購入した。

(三) ワラント購入後約九か月経過した平成四年一月ころ、被告から送ってきた「ワラントについて」というリーフレットにより、原告山口の手持ちワラントの時価が購入額を下回っていることを知ったが、原告山口は、野村が「絶対儲かる。」と言っていたことを信じていたので、気にしなかった。ところが、その後、原告山口は、新聞やテレビ等のマスコミで、ワラントが危険なものであることを知って不安になり、また、原告山口手持ちのワラントの時価が、それまでに送られてきた三か月に一度のリーフレットによると、どんどん下がってきていたので、原告山口は、大変なことになったと思い、野村に対して、ワラントを処分したい旨伝えた。しかし、野村は、「損して売る必要は全くない。しばらく待てば、必ず上がる。」と言った。そこで、原告山口は、野村の話を信じ、値が上がるのを待ったところ、ワラントの値は、その後ますます低下するばかりであり、平成五年九月一日、原告山口は強くワラントの売却を申し入れてようやく売却した。

(四) 結局、手元に残った金額は一三万四五三三円であり、投資した金額が六六四万六〇六二円であったから、金六五一万一五二九円の損害を被った。

(五) 被告の行為の違法性(説明義務違反)

被告は原告山口に対し、ワラントの商品内容、他の金融商品との差異、価格形成のメカニズム、権利行使期間等の説明を全くしなかったのみならず、むしろ逆に「株より絶対儲かる」等と断定的判断・説明をし、その後も、再三にわたる原告の売却指示にもかかわらず、前記の説明によって、結局、売り時を失わせた。

(六) 損害

原告山口は、被告の右違法行為により、本訴訟追行のための弁護士費用六六万四六〇六円を含め合計七三一万〇六六八円の損害を被った。

(七) よって、原告山口は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償又は証券取引法一六条に基づく損害賠償請求として、七三一万〇六六八円及びこれに対する平成三年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5  阿藤哲男関係

(一) 原告阿藤哲男(以下「原告阿藤」という。)は、昭和六一年の被告を通じた株取引が同種取引をした初めての経験であった。以後、被告を通じた株取引、投資信託取引が唯一のものであり、投機性の高い信用取引、先物取引等はしなかった。原告阿藤は、すべて担当者に勧められるまま売買をし、これらの取引はトータルでプラスになっていて、被告に対する信頼は高まっていた。

(二) 原告阿藤は、平成二年三月二六日、父の遺産である借地権及び建物の処分による分配金八〇〇万円を被告の金貯蓄(スーパーゴールド)口座に預けるつもりで申込みをなし、同日同額を被告の取引口座に振り込んだ。右預託の目的は、老後の生活の安定と将来の子供の学費に充てるため、安全・確実な貯蓄をするためであった。ところが、翌二七日、当時の被告の担当者であった志比泰秀(以下「志比」という。)から、電話でワラント取引を勧誘された。志比の説明は、「金貯蓄より有利な商品があります。ワラントは梃子の原理で株価が一割上がれば二、三割上がります。おいしいですよ。」というだけであり、ワラントの仕組み、行使期限、行使期限を徒過すると文字どおり紙屑になること、行使価格が株価の時価を上回ると実質価値はゼロになってしまうこと、行使期限が一年、二年以内に迫った段階では紙屑同然であること等の基本的な事項について説明しなかった。

(三) 原告阿藤のワラント取引は、当初は、志比の説明どおり、短期間に高額の利鞘を生んだものもあった。そこで、原告阿藤は、ワラント取引はほぼすべて儲かるものと誤解させられ、差益をすべて他のワラント投資に注ぎ込んだ他、同年五月一六日に新たに遺産分配金の残金一〇〇〇万円で金貯蓄口座を申込んだものの、その一部も志比の勧めでワラント取引に充てられた。しかし、原告阿藤が購入したワラントの価格は、平成二年七月ころから顕著な下落を続けた。同年七月中頃、志比から原告に対して、ワラントを保有し続けるように電話があったものの、同年一一月末には、ほぼすべての銘柄が三分の一から四分の一の価格に下落していた。それ以後、原告阿藤が志比に説明を求めても持っておくようにというばかりであり、平成三年六月に、志比は後任に任せて転勤してしまったので、同年八月三一日、原告阿藤は被告東急東横営業所に赴いて所長と話し合いをしたが、会社は責任を負えないとあしらわれた。

(四) 被告の法的責任

(1)  適合性違反

原告阿藤の経歴、投資経験、資産の性格、いずれの点からみても、高度の投資判断を要求されかつ高いリスクを負わされるワラント取引には適合しないことは明らかであり、かかる投資家にワラント取引を勧誘すること自体が違法性の極めて高い行為である。

(2)  説明義務違反

前記事実からすると、被告に原告阿藤に対する説明義務違反があったことは明らかであり、かかる必要な説明をしない勧誘は不当勧誘であり違法である。

(3)  断定的判断の提供

原告阿藤は、志比の「金貯蓄より有利」という説明により、ワラントが確実性を備えるものであると考えた。かように有利な情報のみを断定的に提供し、勧誘したものである。

(4)  過当勧誘

原告阿藤は、処分可能な資産の半分を超える一〇五五万円もの資金をワラント購入に充てていた。ワラント単体にこれだけの投資を一気に行うことは極めて危険性の高い行為である。志比において、分散投資を勧めるべきであったのであり、本件志比の勧誘態様は、過当勧誘にあたり違法性を帯びる。

(五) 損害

原告阿藤は、被告の右違法行為により、本訴訟追行のための弁護士費用一一三万四七〇〇円を含め合計一二四八万一七〇二円の損害を被った。

(六) よって、原告阿藤は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償又は証券取引法一六条に基づく損害賠償請求として、一二四八万一七〇二円及びこれに対する平成二年六月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三当裁判所の判断

一  ワラント勧誘における証券会社の義務

1  甲第一一号証の2ないし12、第二二、第三九ないし第四二号証、第四四号証の2及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(一) ワラント(新株引受権証券)とは、ワラント債(新株引受権付社債)の新株引受権部分が分離されたもので、権利行使期間内に予め定められた金額(権利行使価格)を払い込むことにより一定数量の新株を購入できる権利であり、右権利行使期間が経過すれば右権利は消滅する。

ワラントの価格はパリティ(理論価格)とプレミアムとからなり、前者は新株引受権を行使することによって得られる当該ワラント発行会社の現在の株価と権利行使価格との差額を基準に計算されるものであり、後者は株価上昇の期待度、変動性、残存する権利行使期間の長短等によるもので、理論的な算出はできない現実の市場価格とパリティとの差額である。一般的に、残存する権利行使期間の終了が近づくとプレミアムは減少し、ワラントの市場価格はパリテイに近づく。また、パリティはマイナスとなることもある。

(二) ワラントの価格は理論上、当該ワラント発行会社の株価に連動して変動するが、一般にその変動率は株価に比して大きく、株の値動きに比べてその数倍の幅で上下することがあり(いわゆる「ギアリング効果」。しかし、プレミアム部分自体にはギアリング効果が働かないため、プレミアム部分の大きいワラントの場合にはギアリング効果は働きにくい。)、概して不安定である。したがって、比較的少額の投資でかつ短期間に高い利益を得ることができる可能性がある反面、値下がりも激しく、しかも権利行使期間の制約が存在することから投資資金の全額を失う危険性もある。

(三) ワラント取引による利益は、ワラントをその購入価格以上の価格で売却するか、当該ワラント発行会社の株価が権利行使価格を上回ったときに新株引受権を行使して新株を取得し、これを売却することによって得られるが、購入後にワラント価格又は株価が上昇せず、また、今後も上昇する見込みがない場合には売却の可能性はほとんどなく、株価が権利行使価格を下回り、権利行使期間内に再び権利行使価格を上回るとの期待が存しない場合にはワラントは無価値となり、権利行使期間の経過により権利は消滅して無価値で確定する。

(四) 以上のとおり、ワラント取引は、株取引に比較してハイリスク・ハイリターンの性格を有する取引であるが、他方、その損失は、信用取引とは異なり、ワラント買付代金の範囲に限定されている。

(五) 外貨建ワラントは、証券取引所に上場されず、投資家と証券会社との間の相対取引により取引が行われるため、店頭気配値の公表のほかは情報の開示が不十分であり、また、ワラントの価格は、為替変動の影響を受け得る。

2  一般に証券取引は、価格変動によって損失をこうむるという危険性を本来的に伴うものであるから、投資家は開示情報を基礎にしつつ、自らの責任で取引の危険性を判断して取引をするか否かを決定すべきものであり、その限りで自己責任の原則が妥当する。しかし、右のようなワラントの危険性に鑑みると、証券会社の従業員が投資家にワラント取引を勧誘する際には、当該投資家がワラント取引に相応しい能力、経験、知識及び資力を有していることが要求されるとともに(適合性の原則)、証券会社の従業員は、投資家が右ワラントの危険性を十分に理解していないと判断される場合には、信義則上、右危険性について、投資家の能力、経験、知識、資力等に応じ、投資家がその時点における経済情勢等を踏まえた合理的な判断により投資の可否を決することができる程度に、右ワラントの仕組み及び危険性の基本部分につき理解しうるような説明をなすべき義務(説明義務)を負っており、さらに、投資家の右合理的判断を妨げるような断定的判断の提供、虚偽事実の表示等を行ってはならないものであるから、右各義務に違反するときは、具体的状況に照らし勧誘行為が私法上違法となることがあるというべきである。原告らがワラント取引一般について述べるところは、この限度において妥当する。他方、証券会社の負う義務は右の限度にとどまり、ワラント取引の勧誘に際し、個別的取引について銘柄選定、注文の判断材料となる投資情報等を積極的に提供すべき義務を負うものではなく、勧誘の具体的状況に照らし証券会社の有する情報を提供しないことが特に信義に反するような特段の事情のないかぎり違法なものとはいえないというべきである。

3  ワラントを勧誘すること自体の違法性について

右認定のとおり、ワラントは、リスクの高い金融商品ではあるが、他方、そのリスクは最大限投資全額にとどまること、ギアリング効果等により投資金額に比して高額の利益を上げる可能性があり、一定の経済的合理性を有すること、一般投資家においてもかかる取引をするかしないかを決定する自由があることからすると、証券会社が一般投資家に対して外貨建ワラントを勧誘すること自体が直ちに違法であるとはいえず、証券会社は積極的に右勧誘をしてはならない義務を負うものではない。

4  ワラント購入後の情報提供、助言義務

原告らは、証券会社は顧客に対し、取引後に情報を提供し、あるいは売却を勧告して損害の拡大を防止すべき義務を負う旨主張しているが、投資者が自己の判断と責任において証券取引を行うべきものであることは前示のとおりであり、また確実な予測、投資判断は困難であるから、証券会社が一般的にかかる義務を負う根拠はなく、かかる情報の提供や売却の勧告をしなかった不作為をもって違法なものとはいえないというべきである。

5  目論見書交付義務違反について

原告らは、被告の原告らに対する本件各ワラントの勧誘行為は証券取引法一五条二項の「募集」及び「売出し」に該当し、被告に目論見書を交付する義務がある旨主張する。しかし、右規定は、不特定多数の者に対して均一の条件でなされる発行市場での有価証券の募集又は売出しの際に、公衆に提供する当該有価証券の発行者の事業に関する説明を記載した文書を交付することによって、投資家の判断に資する情報を開示するための規定であって、既発行のワラントをその時々に変動する価格に従って取引される流通市場で且つ相対取引によってのみなされる本件ワラントのごとき販売を予定したものではないと解されるから、原告らの主張は理由がない。

6  右に基づき、以下各原告の主張する事実関係について検討する。

二  原告南雲俊夫の請求について

1  本件ワラント取引勧誘の経緯等

(一) 争いのない事実、甲イ二第一ないし三号証、乙イ二第一、二号証、第四ないし二〇号証、第二二号証の一ないし二三、第二三号証の一ないし一〇、第二四号証の一ないし三、第二五、二六、二八号証、証人知野裕の証言、証人藤田良樹の証言、原告南雲俊夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告南雲は、昭和一九年一〇月二七日生まれで、昭和五四年一二月に、株式会社俊設備プロセスを設立し、同社の代表取締役の地位にあった。

(2)  被告との従前の取引

原告南雲は、昭和五九年一二月一八日付で、総合口座総合取引申込書を作成し、中期国債ファンドを購入して被告川口支店との間で証券取引を開始した(乙イ二第一九号証)。

以来、ワラント取引を行うまで、転換社債を中心に取引を行っていた。取引額は概ね一〇〇万円台から二〇〇万円台のものであったが、NTT株を一九〇〇万円で一〇株、転換社債を中心として運用する投資信託コンバーチブルボンド八八-一二を五〇〇万円で購入するなどもしていた。そして、昭和六三年一〇月二一日から平成元年二月二〇日までに、約八〇〇〇万円の現金又は小切手を被告の口座に振り込んでおり、相当の資力があったと認めることができる。

(3)  ワラント取引の開始

昭和六三年一一月ころ、知野が原告南雲の担当者となり、電話で引き継ぎの挨拶をし、その後も電話で証券取引の勧誘を行っていた。そして、同年一二月ころに、知野は、ワラント事情が活況であると判断したため、原告南雲に対し、ワラント一般の説明をして投資を勧誘した。

その説明内容は、ワラントが新株引受権であること、株が一割値上がりするとワラント価格そのものが三割から四割ぐらい値上がりするが、逆に下がるときにも同様の値下がりをするハイリスクハイリターン商品であること、また、ワラントに行使期限があり、その期間を過ぎるとワラントが無価値になること、ワラントの価格が行使価格を上回っていないとワラントとしての価値がないこと、為替リスクがあることであった。原告南雲はこれに対し、値動きが激しく値下がりをした場合に発生する損失について懸念していたので、知野は、もし値下がりをした場合には、早めに損切をするか、そのまま保有するかを判断した方がいいと説明した。

同年一二月ころ、知野は、近鉄が含み資産のある会社であり、含み資産のある株が上昇気流にあったので、近鉄のワラントを具体的な銘柄として勧めた。このときに、権利行使期限、権利行使価格、理論価格を説明した。原告南雲は、別紙取引経過一覧表(一)のとおり昭和六三年一二月二二日に近鉄ワラントを一〇〇単位一五五五万六二五〇円で購入した。

これに対し、被告は、ワラント取引説明書(乙イ二第五号証)を原告南雲に対して送付し、同説明書末尾に添付されているワラント取引に関する確認書に、原告南雲の記名捺印を受け、遅くとも同月二六日までに受け入れた(乙イ二第四号証)。同説明書にはワラントの仕組み、行使期間やリスクなどについても説明されており、同確認書には、説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラント取引を行う旨記載されている。

さらに、被告は、ワラント取引の翌日には、売買報告書又は取引報告書とワラント取引のご案内と題する書面を送付したが、右ワラント取引のご案内(乙イ二第二〇号証)には、ワラントの意味、価格形成の特徴、権利行使期限の意味、価格変動の特徴、権利行使方法などが記載され、権利行使期間終了によってワラントが無価値になること、値下がりが激しい場合もあり、投資金額の全額を失うことがあることなどがアンダーラインを付して記載されていた。

また、被告から原告南雲に対し、近鉄ワラントの預り証が発行されているが(乙イ二第六号証)、同預り証には、権利行使期限が明記されている。

なお、原告南雲は、同月二二日付で、外国証券取引口座設定約諾書を作成している(乙イ二第二六号証)。

(4)  ワラント取引の継続

その後もワラント取引は継続され、取引経過一覧表(一)のよみうりランドワラントまで、知野が担当して買付が行われた。

各取引ごとに、前記と同様に、売買報告書又は取引報告書とワラント取引のご案内と題する書面が送られ、買付から預り証を発行するまでの間に売却されたもの以外は、預り証が送付された(乙イ二第七ないし一四号証)。

この取引は、すべて一〇〇〇万円を超える取引で、ワラントの単位で一〇〇、金額で一五〇〇万円程度の取引が多かった。この取引では、概ね利益を上げており、短期間に二〇〇万円を超える利益を上げているものもあったが、伊藤ハムワラント及び三菱電機ワラントでは損失を出した。

知野は、この間に、電話で週に一、二回連絡をとり、保有有価証券の時価やマーケットの状況を知らせていた。知野がワラントを勧誘すると、南雲は慎重に検討するなどし、資金不足や銘柄が気にいらないなどの理由で二回に一回ぐらいの割合で、取引を断った。

(5)  藤田へ取引担当の引き継ぎ

平成元年六月から、原告南雲の担当者が知野から藤田へ引き継がれた。藤田が担当として取引を行ったワラントは、別紙取引経過一覧表(一)のアサヒビールワラントの買付以後である。

藤田は、引き継ぎの挨拶をしに原告南雲方へ訪問したが、会えなかったため、電話で引き継ぎの挨拶をした。この時に、原告南雲は、ワラントがよく分からないとか、苦情とかは何も言っていなかった。

藤田は、別紙取引経過一覧表(一)のニチイワラントとよみうりランドのワラントを売却してアサヒビールワラントを買うことを勧誘し、原告南雲は三四八〇万九七五〇円で同ワラントを二〇〇単位購入した。この時に、行使期限、行使価格、ワラントの時価、株の時価、理論価格などについて伝えたが、ワラントについての一般的な説明はしなかった。

藤田は週に一回程度、電話で原告南雲に連絡をとっていた。ワラントの価格や相場状況を報告するとともに、値下がりしているワラントについて、売却するかの判断を求めたが、原告南雲は売る決断をしなかった。

右ワラント取引においても、被告はワラントについての預り証を発行しており(乙イ二第一五ないし一八号証)、また、平成二年二月末からは、ワラントの時価評価のお知らせを三か月毎に送っていたが(乙イ二第二二号証の一ないし二三)、この時価評価のお知らせには、銘柄、一ワラントあたりの社債額面、通貨、数量、買付単価、当時のワラント単価、それの基づく評価損益、時価評価額等が記載され、平成三年七月以降のものは、権利行使期限、権利行使の最終受付日も併せて記載されるようになった。また、平成二年一二月から、毎年一二月に、ワラントを保有している顧客に説明書を送付することになり、これは原告南雲にも送られていたが(乙イ二第二四号証の一ないし三)、同説明書には、ワラントのリスク及びワラントの仕組みについて説明されていた。さらに、平成三年九月一〇日から平成六年六月一〇日まで、ワラント行使期限のお知らせが送付されていた(乙イ二第二三号の一ないし一〇)。

藤田は、原告南雲方を訪れ、平成三年七月三一日付の時価評価の知らせの確認書欄に、原告南雲の記名捺印をもらった(乙イ二第二二号証の五)。この際、藤田はワラントの売却を勧めたが、最短のものでも行使期限まで一年前後は残っていたので、原告南雲は様子を見たいと言い、そのまま保有することになった。また、原告南雲は、証券不祥事などがマスコミで放送されていたため、自己の損失は、被告の顧客の損失補填に使われたのではないかと苦情を言っていた。

その後、原告南雲が保有していたワラントの価格は回復することなく、売却によって多額の損失を出し、あるいは権利消滅するなどした。

(二) 右認定に対し、原告南雲は、知野からワラント取引の勧誘を受けるに際して、取引に供している資金は、住宅購入資金の一部であるから、一割程度の損失が出たら取引を打ち切ることを条件とすることを伝えたが、ワラントの説明としては、<1>ワラントは、基本的には株式市場と同じであるから、市場全体の動きを見ていればよいものであること、<2>短期間で売買するものであるから損失が大きくなることはないものであること、<3>被告に運用を任せて欲しいことのみ受けただけで、詳しい説明はされなかったと主張し、原告南雲本人尋問の結果、原告南雲作成の陳述書(甲イ二第一ないし三号証)にもこれに沿う供述部分ないし記載部分があるので検討する。

原告南雲は、前記認定のとおり、資金的には一〇〇〇万円を超える単位の証券取引をなし得、被告の証券取引に投じただけで少なくとも八〇〇〇万円の資金があったのであるから、十分な資金力があったというべきである。また、原告南雲は、昭和五四年一二月から、自ら株式会社を設立してこれを経営してきたのであり、株の仕組みについては分かっていたと供述し、新聞などを見てワラント欄があるなども知っていたと供述している。

このような、経歴、能力、資金力を有する原告南雲が、一〇〇〇万円を超える高額なワラント取引を繰返すにあたって、その危険性を考えず、前記原告南雲主張のように詳細な説明を求めることも受けることもせず、漫然と取引を行い、しかも重要書類に記名捺印をするとは考えがたい。

現実に、原告南雲は、本人尋問において、藤田から「ワラントというのは多少リスクが伴うけども」と説明を受けたと供述し、リスクがあるんだという話が出たのかという質問に対して、「はい」と答えていることからすると、藤田の勧誘の際にリスク説明があったことが推認できる。また、最初の取引直後には、ワラントの仕組みやリスクなどについて説明したワラント取引説明書が送付されているし、これに添付された確認書には、説明書の内容を確認し、自分の判断と責任においてワラント取引を行う旨記載されているが、これに署名捺印して速やかに返送しているのであって、知野から説明を受けていて、その内容は説明書の内容とも齟齬がなかったことが推認される。そして、その後も、取引ごとに、ワラントの説明が入ったワラント取引のご案内を受けとっているし、時価評価のお知らせや、電話などでもワラントの状況などを知らされていたのである。

さらに、原告南雲は、本件の投資資金は住宅資金であり、元利金の一割の損が出たらやめると言っていたと主張するが、その時期や内容が曖昧で十分に説明できておらず、実際にワラントで損失を出してもすぐにやめるという行動はとらずに取引を継続しているのであって、信用性にも問題がある。

以上の点からすると、前記認定に反する原告南雲の供述等を採用することはできない。

2  そこで、右認定事実に基いて考えてみる。

(一) 説明義務違反

前示のとおり、原告南雲は、適切な説明があれば自己の判断においてワラントを含む証券取引を行う経歴・能力・資力を有するところ、知野は、ワラント取引の勧誘にあたり、ワラント一般について、ワラントが新株引受権であること、値上がり・値下がりの激しいハイリスクハイリターン商品であること、ワラントには行使期限があり、その期間を過ぎるとワラントが無価値になること、ワラントの価格が行使価格を上回っていないとワラントとしての価値がないこと、為替リスクがあることを説明し、さらに、知野や藤田は、具体的な銘柄についても、権利行使期限、権利行使価格、理論価格を説明していたのであり、その後も、被告からは、ワラントの仕組みやリスクについて説明したワラント取引説明書、取引ごとのワラント取引のご案内、年一回のワラントの説明書等が次々と送付されているのであって、説明義務に違反するような事実は存しなかったというべきである。

(二) その他に、違法性を有するような取引がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

3  結論

以上のとおり、原告南雲の主張する各義務違反は認められず、取引に関する具体的事情に照らして野村が違法な勧誘を行ったと認めることはできないから、同原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  原告和田博雄の請求について

1  本件ワラント取引勧誘の経緯等

(一) 甲イ三第一号証、乙イ三第一号証、第三号証、第五ないし九号証、第一〇号証の一ないし七、第一一号証の一ないし八、第一二号証、証人西家卓治の証言、原告和田博雄本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告和田は、昭和二二年八月九日生まれで、昭和四〇年に茨城県立鉾田高等学校を卒業した後、茨城県東茨城郡小川町の訴外武所有の自宅兼店舗で衣料品販売店を経営していた。

(2)  ワラント取引以前の投資経験

訴外武は、昭和六一年八月ころ、被告野村ビル支店同支店に口座を開設し、西家を介して、同年八月三〇日、三菱商事株一〇〇〇株、東京電力株二〇〇〇株を買い付け、同年九月五日には、鹿島建設株三〇〇〇株を買い付けていた。ところで、西家は、訴外武に連絡をとるために、昭和六一年九月初旬、同人方に電話をかけたところ、原告和田が電話に出た。このとき、西家から積極的に勧誘したのか、原告和田から取引の説明を求めたのか定かではないが、結局原告和田の名義で株取引を行うことになり、西家は、原告和田に対し、横浜銀行株と投資信託コミュニケーション&ネットワークの買付を案内したところ、原告和田は興味を示し、同年九月九日、横浜銀行株三〇〇〇株を買付代金二八六万五〇〇〇円で、翌一〇日、投資信託コミュニケーション&ネットワーク五〇〇単位を買付代金五〇〇万円で、それぞれ買い付けた。被告と原告和田との取引は、その後も一貫して電話で取引がなされたが、最初の株の買付から、昭和六二年二月二五日の最初のワラント取引までの間、原告和田は外国株を含む一七銘柄を二二回にわたって買い付け、一〇三万五八二七円の損を出し、八六万四九〇二円の益を得ている。また、最初のワラント取引を行った日である昭和六二年二月二五日には、NTT株等時価評価で三〇〇〇万円に近い株等を保有していたし、原告和田が投じた買付資金の合計は約六〇〇〇万円になっていた。

右の取引は、主として西家から提案したものであったが、原告和田から注文したものも含まれており、また、西家が提案したものをすべて原告和田が承諾したわけではなかった。

そして、原告和田は、昭和六一年九月一〇日ないし同年一〇月二日付総合取引申込書(乙イ三第五号証)、同年一〇月二日付保護預り口座設定申込書(乙イ三第六号証)、同年一〇月二八日付外国証券取引口座設定約諾書(乙イ三第九号証)を差し入れている。

(3)  ワラント取引の開始

西家は、原告和田が、ある程度の資金をもっており、証券投資にも理解をもっていたと判断し、昭和六一年当時、ワラント取引も活発になってきていたので、原告和田との電話連絡の際に、ワラントの商品性について説明し、取引対象としてワラントも考慮する価値がある旨を話して、二、三銘柄を紹介した。

原告和田は、少し様子を見ていたが、西家に阪急電鉄のワラントを勧められて、昭和六二年二月二五日に同ワラントを購入した。

右のワラント購入にいたるまでに西家は、原告和田に対して、ワラントは新株引受権であり、一定の期間中に一定の行使価格で新株を引き受ける権利であること、値動きに関しては株価にある程度連動すること、値動き自体が株より三から五倍ぐらい激しいこと、行使には期限がありそれを過ぎると価値がゼロになること、株価が上がると考えている銘柄であればワラントの方が効率がよいこと、外貨建ワラントには為替リスクがあることを説明した。後日、被告新宿野村ビル支店総務課は、同ワラント買付に対して、「ワラント取引の『ご案内』」と題する書面(乙イ三第一二号証)を原告和田宛に送付した。同書面には、ワラントの意味、価格形成の特徴、権利行使期限の意味、価格変動の特徴、権利行使方法などが記載され、権利行使期間終了によってワラントが無価値になること、値下がりが激しい場合もあり、投資金額の全額を失うことがあることなどがアンダーラインを付して記載されていた。

(4)  ワラント取引開始後の経緯

その後も、原告和田は、別紙取引経過一覧表(二)のとおり、同年九月一一日までに、延べ一二銘柄のワラントを購入した。このうち、三井不動産、三菱地所、住友商事以外の銘柄では、利益を上げた。

被告は、原告和田に対して、各ワラント取引ごとに、前記「ワラント取引の『ご案内』」を送付していた。また、被告は、各ワラント取引ごとに、ワラント預り証を送付し、原告和田は受領したことを確認して、署名捺印をしている(乙イ三第一〇号証の一ないし七)。

さらに、昭和六二年九月ころには、ワラント取引説明書を顧客に交付し、説明書に添付されている確認書を受けるという運用が開始されたため、西家は、原告和田に対して、同日ころ、ワラント取引説明書(乙イ三第八号証)を送付して、原告和田は、同年一〇月一日付ワラント取引に関する確認書(乙イ三第七号証)を差し入れた。同確認書には、自己の責任でワラント取引を行う旨の記載がある。

また、遅くとも平成二年一月三一日からは、外貨建ワラント時価評価のお知らせ(乙イ三第一一号証の一ないし八)が原告和田に送付され、買付金額、時価評価額、時価評価損益、気配値などが知らされていた。

その後、ワラントの価格は下落を続けていたが、原告和田は、平成三年九月ころ、三井不動産及び三菱地所ワラントの売却を求め、同年九月二日、三井不動産ワラントが、同年一〇月一一日に、三菱地所ワラントが売却された。

(二) 右認定に対し、原告和田は、西家からワラント取引について勧誘されるに際して、ワラントという商品の説明はおろか、商品の名前さえ告げられず、ただ転換社債のようなものだといわれ、利殖性を強調されるなどし、西家に言われるままにワラント取引を行い、ワラントの取引は事後承認で行われていたと主張し、原告和田博雄本人尋問の結果、原告和田作成の陳述書(甲イ三第一号証)にもこれに沿う供述部分ないし記載部分があるので検討する。

原告和田は、自ら衣料品販売店を経営し、その取引においては、小切手を振出し、実印を使用していること、ワラント取引の開始までに株や投資信託の取引を経験し、損益も経験し若干の損を出していること、ワラント取引の当時三九歳と社会経験、判断力なども十分にあったと認められる年齢にあり、自分が被告との取引において被害を受けたと感じた際には被告から口座元帳を取り寄せるなどの行動力も持っていることを考え併せると、そのような原告和田が、全く西家の言いなりになって、転換社債のようなものだと言われただけで、商品名もわからず、何百万もする商品の取引を開始継続し、これを断ることができなかったというのは信じがたい。

原告和田は、西家に騙され続けていると思いながらも、事後承諾でワラント取引を継続させられた旨供述しているが、いかに西家のセールスが強かったとしても、このような状態が継続するということ自体が不自然であるところ、原告和田の供述中には、その他にも、証券取引では、損をすることもあるし儲けることもあるということすら知らなかったという部分や、ワラント取引に関する確認書(乙イ三第七号証)の切り取り部分について、被告の方ではさみで切取ったようなギザギザの跡を付けたとの趣旨の供述をしている部分など、不自然な部分がある。また、原告和田は、ワラント取引確認書を送付する際にも、西家からきちんと説明を受けられなかったとの抗議の態度を示したことは窺われないし、最終的に大きな損を出した三井不動産ワラント、三菱地所ワラントを売却した後も、株取引を行っており、西家から騙されたという者の態度としては考えがたいものがある。

他方で、原告和田は、西家からワラントの値動きとして株の三倍ぐらい上下するとの説明を受け、大蔵省で認可された証券で、新聞にはワラント価格が発表されていないから、自分に聞いて欲しいと西家に勧誘されたと供述しており、西家が説明をしようとした態度があったことは原告和田の供述からも推認されるところである。

このような原告和田の供述の不自然性や西家の証言からすると、前記認定に反する原告和田の供述は採用できない。

2  そこで、右認定事実に基いて考えてみる。

(一) 適合性の原則について

原告和田は、被告とのワラント取引を行った当時は三九歳であり、衣料品販売店を経営し、資力としては、事実上処分可能な数千万円の自己資金を有しており、投資経験としても、株、投資信託などの多数回の取引を行って損益を経験するなどしていたのであるから、原告和田は、ワラント取引を行うだけの、能力、理解力を有していたというべきであって、原告和田にはワラント取引への適合性がないとの同原告の主張は理由がない。

(二) 説明義務違反

右のとおり、原告和田は、適切な説明があれば自己の判断においてワラントを含む証券取引を行う資力・経験・能力を有するところ、西家は、ワラント取引の勧誘にあたり、ワラントは新株引受権であり、一定の期間中に一定の行使価格で新株を引き受ける権利であること、値動きに関しては株価にある程度連動すること、値動き自体が株より三から五倍ぐらい激しいこと、リスクとして、行使には期限がありそれを過ぎるとゼロになること、株価が上がると考えている銘柄であればワラントの方が効率がよいこと、外貨建ワラントには為替リスクがあることを説明していたし、また、後日、被告から「ワラント取引の『ご案内』」と題する書面を送付し、同書面には、ワラントの意味、価格形成の特徴、権利行使期限の意味、価格変動の特徴、権利行使方法などが記載され、権利行使期間終了によってワラントが無価値になること、値下がりが激しい場合もあり、投資金額の全額を失うことがあることなどがアンダーラインを付して記載されるなどしていたから、原告において、十分にワラントのリスクについて認識する機会が与えられていたというべきであって、自己責任を問うだけの前提は充たされていたと認められるから、被告に不法行為を構成するような説明義務違反があったとは認められない。

(三) 断定的判断の提供について

原告和田は、「今度新しい商品が入った、三倍に動くものだ、高いときに売れば利が大きい。」と西家が発言をしたことをもって断定的判断の提供に当たると主張している。

西家の発言の骨子は右のとおりであったと認められるものの、西家の証言によれば、そのニュアンスはかなり異なっているところであるが、これをおいても、右の文言のみを取り出してみれば有利な面のみを強調したという捉え方もできないわけではないが、その内容自体虚偽のものを含むものではないし、絶対儲かるという内容でもないのである。さらに、前記認定のとおり西家は同時にワラント取引のリスクについても説明しており、その後の書面においてもリスクについて触れられているから、右発言をもって、違法な断定的判断の提供があったと認めることはできない。

(四) 過当勧誘

原告和田は、前記認定のとおり証券取引に耐えうる資産を有していたのであり、ワラント取引についても、比較的ワラントに投資した額が多かったことは確かであるが、同時に株や投資信託の取引も継続しており、銘柄なども一業種に極端に偏らせるなどはしておらず、一定のリスク分散を図っていたし、西家からの勧誘は電話で行われたのであって、原告和田としても望まなければ断ることは比較的容易であったというべきであるから、違法性を有するような過当勧誘があったとは認められない。

3  以上のとおりであるから、原告和田の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四  原告山口惇の請求について

1  本件ワラント取引勧誘の経緯等

(一) 争いのない事実、甲イ四第一号証、乙イ四第一号証、第三ないし五号証、第七ないし一一号証、第一三号証の一ないし七、第一四ないし一七号証、証人野村喜一郎の証言、原告山口惇本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告山口は、昭和三六年中央大学商学部を卒業し、三社ほどの営業職を経験した後、昭和五一年九月に株式会社協和包装資材株式会社を設立して代表取締役に就任した。同社は、平成三年ころから業績が伸び、平成五年ころには、売上一四億円強、従業員二四人くらいの会社であった。原告山口の資産としては、平成五年九月二〇日及び平成六年一月二〇日において、年収一〇〇〇万から三〇〇〇万円、金融資産五〇〇〇万から一億円と評価されている(乙イ四第七、八号証)。

(2)  被告との従前の取引

原告山口は、昭和六二年三月一九日付で、総合取引申込書、保護預り口座設定申込書、ホームトレード利用申込書を作成し、被告所沢支店との間で証券取引を開始した(乙イ四第三ないし五号証)。

銘柄ごとの取引額は概ね数百万円単位であり、一銘柄あたり七〇〇万円を超える取引もしばしば行われていたし、一時に複数の銘柄の取引をすることもあり、そのような場合に一〇〇〇万円程度の取引をすることもあった。損益としては、トータルで若干損失が上回っているが、取引銘柄ごとにみた損益では利益を出していることの方が多かった。

また、取引の銘柄については、原告山口と被告の営業担当者とが半々ぐらいの頻度で決めていた。

(3)  被告担当社員野村の引継

野村は、平成二年六月から、原告山口の担当を引き継ぎ、同月八日に、トーアスチール株の売付を行った。

そして、同年九月一一日、原告山口からの注文で旭化成株の買付がなされ、また、平成三年二月二八日には、野村の勧誘でナムコ株の買付がなされた。旭化成株は平成三年三月一五日に売却され、ナムコ株は同年四月一一日に売却されているが、それぞれ、二四万一六四七円、四八万四〇三九円の利益を上げている。

野村が引き継いでからの取引の状況も、約半数が原告山口からの注文であり、すべての取引について最終的には自分自身で決定していた。

(4)  ワラントの勧誘

野村は、平成三年四月八日に、原告山口の会社を訪問し、業績が良く価格上昇も見込まれると考えた山之内製薬ワラントの買付を勧誘した。

その際、野村は、旧版のワラント取引説明書(乙イ四第一六号証)を使って説明した。旧版は、被告だけで作成していた説明書であり、当時既に全国証券取引所協議会、社団法人日本証券業協会と被告が共同で作成した新版の説明書(乙イ四第一五号証)があったが、それにもかかわらず旧版を用いたのは、新版には載っていない図などが入っており分かり易く説明できたためである。

野村の説明の内容としては、ワラント自体が新株引受権であり、この行使価格があること、株価の変動に連動してワラントの価格が変動するが、株価以上に大きく動くハイリスクハイリターン商品であること、行使期限を過ぎて行使価格以下の株価であれば価値が全くゼロになってしまうこと、価格がパリティーとプレミアムによって形成されることなどを説明した。

その上で、野村は、山之内製薬のワラントを、会社の業績がよく、行使期限まで三年あり、単価も妥当な範囲だと言って、同ワラントとの購入を勧めた。

原告山口は、右勧誘を受け、山之内ワラント購入の決意をし、資金として、平成三年三月一五日に売却した旭化成株の預り金に手持ち資金三〇〇万円を追加して、同ワラント三五単位を六六四万六〇六二円で購入した。

当日、野村は、説明用の旧版のワラント説明書しか持っていなかったので、翌日、新版のワラント説明書の送付手続をとり、原告山口は、同説明書に添付されている国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書に署名、捺印し、返送した。同書面の作成日は平成三年四月九日付となっている(乙イ四第一〇号証)。確認書には、説明書の内容を確認し、私の判断と責任において取引を行いますと記載されている。また、同日付けで外国証券取引口座設定約諾書にも署名捺印なされている(乙イ四第九号証)。

原告山口が被告との間で行ったワラント取引は、別紙取引経過一覧表(三)のとおり、右取引だけである。

(5)  ワラント取引後の経緯

その後、平成三年七月三一日付で外貨建ワラント時価評価のお知らせ(乙イ四第一七号証)が原告山口に送付されたが、同書面には、買付金額、時価評価額、時価評価損益、気配値などが記載されており、この時点で二七八万七六六二円の評価損が発生していた。原告山口は、同年八月一九日付で同書面の確認書欄に署名捺印して返送している。その後も、平成五年二月二六日まで、概ね三か月間隔で外貨建ワラント時価評価のお知らせが送付されている(乙イ四第一三号証の一ないし七)。

また、原告山口は、ワラント以外の取引は従前どおり継続し、一銘柄あたり二〇〇万円から三〇〇万円ぐらいで株や転換社債の売買を行っている。さらに、平成三年八月二七日付で店頭取引に関する確認書を作成し(乙イ四第一一号証)、店頭取引も行っていた。このような取引で、原告山口は、平成五年五月二八日の時点までに、利益を上げるなどしている。

ところで、原告山口は、山之内製薬ワラントの評価額が下がってきたので、野村に対して売却したいと申し入れたが、野村はもう少し待ったほうがよいと説明したので、売却しなかったことがあった。このときの気持ちを、原告山口は、値が下がってきたときには、ここまできたら同じだという気持ちがあったと供述している。

結局、ワラントは、平成五年九月一日に一三万四五三三円で売却された。

(二) 右認定に対し、原告山口は、野村からワラント取引勧誘の際に、「株は儲からないが、ワラントは絶対儲かる。これまでの株での損失分を短期間で絶対取り戻せる」と勧誘され、それ以上の説明はなく、ワラントの仕組み、ワラント取引の危険性等、取引を躊躇させるような説明は全くなかったと主張し、原告山口本人尋問の結果、原告山口作成の陳述書(甲イ四第一号証)にもこれに沿う供述部分ないし記載部分があるので検討する。

原告山口は、大学卒業後営業畑を歩み、昭和五一年九月からは自ら会社を経営してきた者であり、本件ワラント取引の前には株や転換社債の取引をして、利益を得たり損失をこうむったりの経験を何度もしているのである。そのような原告山口が、ワラントについて、株と同じようなものとの説明を受けながら絶対儲かると言われてそのまま信じたとか、リスクの説明を受けなかったというのは不自然であるし、要旨「説明書の内容を確認し、私の判断と責任において取引を行います」と記載された確認書の内容を確認せずに署名捺印するとも考え難いのである。

また、原告山口は、野村から勧められた株で損をし、その補填としてワラント取引を勧められたと供述しているが、前記認定のとおり、野村の担当後ワラント取引勧誘までの取引では利益をあげており、同供述は、明らかに客観的な取引状況と矛盾した内容となっているし、供述自体においても、一方で、野村が勧めたものは損ばかりしていたとしながら、他方で、野村の言うことを信じてワラントを売却しなかったとしており、矛盾がある。

他方で、原告山口は、野村が勧誘する際にチャートのペーパーに何か書いていたことを覚えていると供述しており、野村から一定の説明があったことを推認させる。

以上の点からすると、前記認定に反する原告山口の供述を採用することはできない。

2  そこで、右認定事実に基いて考えてみる。

原告は、勧誘にあたって被告に説明義務違反があったと主張するが、前示のとおり、原告山口は、適切な説明があれば自己の判断においてワラントを含む証券取引を行う資力・経験・能力を有するところ、野村は、ワラント取引の勧誘にあたり、図の描かれた旧版のワラント取引説明書を用い、ワラント自体が新株引受権であって行使価格があること、株価の変動以上に価格が大きく動くハイリスクハイリターン商品であること、行使期限を過ぎて行使価格以下の株価であれば価値が全くゼロになってしまうこと、価格がパリティーとプレミアムによって形成されることなどを説明しており、さらに、右旧版の説明書には、「行使期間中にワラントを行使しないと、ワラントの経済価値はなくなります。」「反面、値下がりも激しく、場合によっては、投資金額の全額を失うこともあります。」と記載されているし、後に送付した新版の説明書にも「ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに、その価値を失うという性格を持つ証券です。」とアンダーラインも付されて記載されているのである。これらの事実に、原告山口は、従前から株や転換社の取引において自ら判断して取引を行っていることも考え併せると、本件において、説明義務に違反する違法な勧誘がなされたとは認めることができない。

3  結論

以上のとおり、原告山口の主張する義務違反は認められず、取引に関する具体的事情に照らして野村が違法な勧誘を行ったと認めることはできないから、同原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

五  原告阿藤哲男の請求について

1  本件ワラント取引勧誘の経緯等

(一) 甲イ五第一号証、第二号証の一ないし六、第三号証の一ないし三、第四号証、乙イ五第一号証、第三ないし一〇号証、第一一号証の一ないし九、第一三号証、証人志比泰秀の証言、原告阿藤哲男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告阿藤は、昭和一三年九月一六日生まれで、都立第一商業高校夜間部を卒業後、世田谷区の実家で父親が個人で営む染物業の手伝いを始め、以後受け継ぎ、その後、写植業に転業して、二〇余年、個人で写植業(あとう写植)を営んできたが、平成七年四月からはマンションの管理人に転業した。

(2)  ワラント取引以前の投資経験及び資産

原告阿藤は、昭和六二年四月一日、保護預り口座設定申込書(乙イ五第五号証)、総合取引申込書(乙イ五第六号証)、金銭の振込先指定方式申込書(乙イ五第七号証)を作成し、被告との間で株取引を開始した。原告阿藤は、株、転換社債、投資信託などの取引を行い、ワラント取引を行うまでに、二九回の買付取引、二四回の売付取引を行い、四八六万〇八六〇円の利益を上げたのに対し、損失は二七万五一九三円にとどまっていたから、トータルで四五八万五六六七円のプラスとなり、順調に利益を上げていたと認められる。

平成二年三月二八日時点での原告阿藤の資産は、父から相続した世田谷区の建物及びその借地権、相続時に従前所有していた建物及びその借地権売却代金の残額が少なくとも一八〇〇万円、並に、被告との間で取り引きしていた投資信託、株で時価一〇〇〇万円程度のものがあった。

(3)  ワラント取引の開始

原告阿藤は、平成二年三月二六日ころ、被告東急東横支店に訪れ、当時の担当者であった志比にワラントをやりたいが、どういうものか教えてほしいと説明を求めた。

志比は、ワラントは新株引受権であり、あらかじめ行使価格、行使期限が定められていること、行使期限が過ぎればワラント価値はゼロになること、ワラント価格は株価の動きに連動するが、値動きの幅は株よりも大きく、株価が一割上下すればワラント価格は二から三割上下するというハイリスク・ハイリターンの商品であることを説明した。

当日、原告阿藤は、とりあえず八〇〇万円分ワラント投資を始めたいといい、志比はリスク分散のため銘柄を分けることを勧め、具体的な銘柄を検討して後日連絡すると約束した。

翌二七日、原告阿藤は、被告との取引口座に八〇〇万円を振り込んだので、志比は、翌二八日、原告阿藤に電話をして、花王、日本電気、鹿島建設、松下電器産業、セッツ、ニコンの六銘柄のワラントを勧め、そのうち原告阿藤は花王、日本電気、鹿島建設、松下電器産業の四銘柄を注文した。このとき、志比は、具体的な銘柄の権利行使価格については説明しなかった。

その後、被告は、原告阿藤に対して、同月三一日に、ワラント取引説明書(乙イ五第九号証)を交付した。そして、原告阿藤は、同説明書に添付されているワラント取引に関する確認書に署名捺印し(乙イ五第八号証)、さらに、外国証券取引口座設定約諾書(乙イ第一〇号証)にも署名捺印して、被告に差し入れた。右確認書には、「説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」と記載されている。なお、確認書と外国証券取引口座設定約諾書の日付は、いずれも平成二年三月二八日と記入されているが、同書面が三月二八日に作成されたものでないことは争いがない。

(4)  ワラント取引開始後の経緯

その後も、原告阿藤は、別紙取引経過一覧表(四)のとおりワラントを購入し、同年五月二九日までに、延べ一一銘柄となった。このうち、花王、鹿島建設、セッツ、ニコンワラントで利益を上げるなどした。

同年四月一九日には、志比は、ニコンワラントが購入価格より下がっていたが、半導体の需要が旺盛なため、ニコンの業績好調を予想し、株価の上昇が期待できると判断して、原告阿藤に対して、平均購入コストを減少させるためであると説明して、ナンピン買いを勧め、原告阿藤も、特に異議等をはさむことなく、これにしたがった。

同年五月三一日以降、被告から、原告阿藤に対し、外貨建ワラント時価評価のお知らせが三か月おきに送付されたが(甲イ五第二号証の一ないし六、乙イ五第一一号証の一ないし一一)、同書面には、買付金額、時価評価額、時価評価損益、気配値などが記載されていた。

その後、ワラントの価格は下落を続け、平成三年五月には、志比が転勤したが、同年八月、原告阿藤は、被告東急東横支店に赴き、ワラントの価格が下がったことを抗議したものの、同支店の所長からは損失補填はできないと言われ、結局、原告阿藤保有のワラントは二束三文で売却された。

(二) 右認定に対し、原告阿藤は、建物及び借地権を処分した代金である八〇〇万円を、老後の資金と子供の学資に充てるために被告の金貯蓄(スーパーゴールド)口座に預けるつもりで、被告の口座に振り込んだところ、志比からワラント取引を勧誘され、「金貯蓄より有利な商品があります。ワラントは梃子の原理で株価が一割上がれば二~三割上がります。おいしいですよ。」とだけいわれ、ワラントの仕組み、ワラントには行使期限があり、行使期限を徒過すると文字通り紙屑となること、特に行使期限が一~二年以内に迫った段階では紙屑同然であること等の基本的な事項について全く説明を受けなかったと主張し、原告阿藤本人尋問の結果、原告阿藤作成の陳述書(甲イ五第一号証)にもこれに沿う供述部分ないし記載部分があるので検討する。

原告阿藤は、父親の個人営業を引継ぎ、その後二〇年余の間個人営業をしていた者であり、ワラント取引の勧誘を受ける前に株、転換社債、投資信託の取引を経験し、相当の利益を上げていたことからすると、本当に老後や子供の学資に充てるための資金であれば、仮に志比から右のとおりのことを言われたとしても、これをワラント取引に投入してしまうというのは不自然であるし、ワラント勧誘後の平成二年五月一七日に一〇〇〇万円被告の口座に送金して、八二七万円分は金貯蓄口座に預けているものの、翌六月一日、同八日、同一五日の三日間ですべて引き出していることも、老後や子供の学資のために安定して貯蓄しておこうとした投資態度としては不自然である。

他方で、原告阿藤は、ワラント購入の三日後である平成二年三月三一日には、ワラント取引説明書の交付を受け、確認書に署名捺印して被告に差し入れているところ、同説明書にはワラントについて基本的な説明はなされ、リスクについても記載されているし、同確認書にも自己責任を負うことが明確に記載されているのであって、このような説明書を交付し確認書を受取らなければならない志比が、全く説明しないとは考えがたい。

また、原告阿藤は、ニコンワラントをナンピン買いする際にも何の異議を申し出ていないし、本人尋問において、ナンピンの意味を聞かれて即座に答えているのであって、証券取引に対する深い理解を有していたことが推認できる。

さらに、原告阿藤は、志比から平成二年六月四日にワラントの勧誘を受けた際には断わり、それ以後ほとんど連絡も来なくなったと供述しているところ、このとおりであれば、志比の勧誘態度が執拗であったとか過大なものであったとは認められない。

他方で、志比は、原告阿藤から、とりあえず八〇〇万円ワラントを購入したいといわれたので、これを勧めたと供述しているところ、実際に原告阿藤は八〇〇万円でワラントを購入したその二か月後には、一〇〇〇万円を振り込んでいるのであり、とりあえずの投資として八〇〇万円を考えていた状況と客観的にも合致している。

以上の点からすると、前記認定に反する原告阿藤の供述を採用することはできない。

2  そこで、右認定事実に基いて考えてみる。

(一) 適合性の原則について

原告は、被告とのワラント取引を行った当時分別盛りの五一歳であり、二〇余年の間、個人で写植の業務を行ってきた社会経験もあった。

そして、資力としても、相続した世田谷区の建物及び借地権、処分した建物等の残金一八〇〇万円、証券として時価一〇〇〇万円程度を保有していたのであるから、資金的にも投資に耐えられるだけのものがあったと評価できる。

投資経験としても、株、転換社債、投資信託などの取引を行い、ワラント取引を行うまでに、二九回の買付取引、二四回の売付取引を行ってトータル四五八万五六六七円のプラスを出しており、このような利益状況や取引用語に精通していることからすれば、原告阿藤は相当に株等の取引に詳しいと考えられること、しかも、原告阿藤は、ワラントで損をした後も株取引を継続したと供述しているのであって、その投資傾向は積極的である。

これらを考え併せると、原告阿藤にワラント取引の適合性がないという同原告の主張は理由がない。

(二) 説明義務違反

右のとおり、原告阿藤は、適切な説明があれば自己の判断においてワラントを含む証券取引を行う資力・経験・能力を有するところ、志比は、ワラント取引の勧誘にあたり、ワラントは新株引受権であり、あらかじめ行使価格、行使期限が定められていること、行使期限が過ぎればワラント価値はゼロになること、ワラント価格は株価の動きに連動するが、値動きの幅は株よりも大きく、株価が一割上下すればワラント価格は二から三割上下するというハイリスク・ハイリターンの商品であることを説明しており、ワラントに関する基本的な説明がなされたといえる。そして、原告阿藤は、ワラントのリスクについても説明されているワラント説明書を受けとっているし、前記認定のとおり、全くワラントをする気がなかったところ無理矢理勧誘されてワラントを始めたという事情も窺えないのであり、違法な勧誘があったとは認められない。

なお、新株引受権の行使価格について告げなかった点は、既に基本的なワラントの枠組みについて説明されていることや、行使期限が切迫していたわけではなく、プレミアムも十分期待できる状況にあったことからすると不法行為を構成するようなものであったということはできない。

(三) 断定的判断の提供について

志比が、ワラントの勧誘に際し、原告阿藤に対して述べた勧誘文言は前記のとおりであり、志比が断定的判断を告げたとは認められない。

(四) 過当勧誘

原告阿藤は、前記のとおりの資産を有しており、その原告阿藤がワラントに一〇五五万円の資金を投じたとしても直ちに過当とはいえず、前記志比の勧誘態度も考慮すれば、違法性を有するような過当勧誘があったとは認められない。

3  結論

以上のとおり、原告阿藤の主張する各義務違反は認められず、取引に関する具体的事情に照らして志比が違法な勧誘を行ったとは認めることはできないから、同原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第四結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 石井俊和 裁判官 西村修)

原告代理人目録

原告訴訟代理人弁護士の氏名

1 田中清治 2 飯田秀人 3 茨木茂 4 宇都宮健児 5 岡崎敬 6 勝山勝弘 7 川人博 8 小寺貴夫 9 小林政秀 10 近藤博徳 11 犀川季久 12 犀川千代子 13 齋藤雅弘 14 末吉宜子 15 芹澤眞澄 16 千葉肇 17 遠山秀典 18 永井義人 19 原田敬三 20 松岡靖光 21 村上徹 22 森田大三 23 横山哲夫 24 米川長平 25 安藤朝規 26 瀬戸和宏 27 澤藤統一郎 28 松澤宣泰 29 宗万秀和 30 安彦和子 31 上柳敏郎 32 小薗江博之 33 浅野晋 34 新井嘉昭 35 荒木昭彦 36 井口多喜男 37 今村核 38 今村征司 39 宇都宮正治 40 小野聡 41 加瀬洋一 42 紀藤正樹 43 坂入高雄 44 渡辺博 45 櫻井健夫 46 鈴木理子 47 田岡浩之 48 竹内淳 49 長野源信 50 萩原秀幸 51 福永寧 52 南典男 53 村越仁一 54 森高彦 55 山岸洋 56 山口廣 57 山上芳和 58 石井恒 59 谷合周三 60 木村裕二

取引経過一覧表(一)~(四)<省略>

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